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 バイオ事故の実例収集については,実例は方々にあるものの,丹念に記録していくことが疎かになっていました。また集積を再開します。

11.バイオ関連事故例11:バーミンガム天然痘死亡事件(1978年9月)(2016-04/09 New!)

 この事件が起きた1978年頃の時期はいわゆるバイオセイフティレベルという概念が生まれる前の時代であったろうと思います。少なくともBSL4施設というものは存在せず,したがってBSL4施設そのものの責任ではありません。しかし,どうしてBSL4施設のようなものが必要になったかという意味で重大な意味を持っています。バイオ動物実験施設というものが持つ本来の危険性をあらためて実感させられます。
 記録として,ウィキペディアを載せておきます。『ジャネットパーカー事件』。またこちらもご覧ください。(天然痘

『ジャネットパーカー事件』の冒頭には次のように書かれています。

ジャネット・パーカー(Janet Parker、1938年3月[1] - 1978年9月11日)は、イギリスの大学職員。天然痘の感染による世界最後の死者となった。パーカーはバーミンガム大学メディカル・スクールの解剖学講座で働いていた際に、微生物学講座研究室から漏洩した天然痘ウイルスに感染し死亡した。このバイオハザードは研究機関の安全性と検査の有効性を見直すきっかけとなった。微生物学講座の責任者であるヘンリー・ベドスン教授はパーカーの死の直前に自殺した。

 微生物学の研究室では天然痘ウイルスを用いた実験がおこなわれており,ジャネットさんが感染した解剖学の研究室はワンフロア上だったのです。1978年といえばすでに自然感染が世界中で収まり,WHOが世界中の研究室に天然痘ウイルスの廃棄を呼び掛けていた時期です。
 WHOは1980年に天然痘撲滅宣言を出すのですが,そのちょっと前にはこうした駆け込みの研究がおこなわれていたのです。言うまでもなく,研究者が名誉欲,業績欲に目が眩んだ結果ですが,研究という職業にも単純に性善説で臨むことの危険性を知らせてくれます(STAP細胞を巡る騒動もその一つです)。(ウィキペディアの記述をお読みください)。

 ここで注目すべきなのはウイルス実験室と感染者のいた場所の階が異なるという点です。そのような場所にまでウイルスが侵入していったのです。原因は空調設備の不具合だったと調査結果は伝えています。
 この研究室は実は当時の基準にはるかに及ばない杜撰なものだったようです。それにしても,いくら杜撰だからといっても,想定そのものが極めて不十分だったのでしょう。

 問題は,ここからです。この事故によって,WHOを初め,各研究機関,研究者は,排気の潜在的な危険性を改めて認識したことでしょう。その結果,『排気は施設内で循環使用してはならない』という原則が確立したものと思われます。

 そうなると,循環使用してはならない(潜在的に危険な)排気は外部へ放出するほかは無くなります。するといったいどういう事になるでしょう?人間や媒介する(かも知れない)生き物のそばに放出してはいけないのは自明の理というものです。
 ではどのくらい距離が離れていれば安全か,というのはわかりません。取り扱うウイルスにより異なるでしょう。しかし,最悪の場合を想定しなければならないのは当然の事であり,これを国の基準としてしっかりと定める必要があるのです。当然,住宅密集地であってはいけないはずで,実際,立地条件に関するWHO勧告を巡る議論で検討したように,WHOの指針はそのようになっているのです。実はWHOの指針の中に,BSL4施設の立地は住居エリアから離れているべきであるという別の証拠を見つけたので,近々に発表する予定です。

 以上まとめると,排気というものは本質的に危険を孕んでおり,そういうものを住宅密集地に放出するなどもってのほか,正気の沙汰ではない,ということです。そういうものを住宅密集地に放出するとなると(平気で,というしかありません),その大学は『公害まき散らし大学』の汚名を着なければなりません。そして,もはや大学と名乗ることも(恥ずかしくて)できないはずです。

 最後に余計なことを書いておきます。このバーミンガム事件のことは松本清張の小説『赤い氷河期』を読んで初めて知りました。この小説はちっとも面白くなくて退屈しながら読んでいたのですが,後半1/4ぐらいの所にこの事件のことが出てきます。
 この小説ではエイズのことが主題であり,虚構と史実が織り交ざっているので,もしやと思い調べた結果,史実だと知ったというわけです。(バーミンガムではその後もいろんな事件が勃発したので,現在「バーミンガム事件」といっても,この天然痘感染死亡事件を指すわけではないようです。)

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========記事はここまで=======

by nakamatachi3 | 2016-04-09 15:29 | ・根拠資料集 | Comments(0)

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