人気ブログランキング | 話題のタグを見る
 長崎大学や国がよく引用する感染症法(正式名称は感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)は一見すると大変複雑そうに見えますが,よく調べるとかなり単純な構成です。長崎大学や国にはBSL4施設をぜひとも稼働したいがために何とか誤魔化そうとする意図が働かないとも限りません。私たちもしっかりと勉強しておきましょう。


1.基本知識 New
感染症法は感染症の病名と病原体と医療機関に関して,分類と分類ごとの取り決めを細かく規定しています。その条文が第六条です。病名と病原体は一つ一つ名前を特定して分類しています。

A. 感染症の分類 第六条第1項~第9項
①「一類感染症(エボラなど)」~「五類感染症」,「新型インフルエンザ等感染症」,「指定感染症」,「新感染症」に分類されます。
②ウイルスの変異や未知のウイルスによる感染症に対しては当然,名前すらついてないので名前を挙げて特定することはできません。おそらくそれを想定して「新感染症」があるのでしょう。
③その中でも特にインフル系を「新型インフルエンザ等感染症」としているのだと思われます。
④「指定感染症」とは従来知られた感染症が特別猛威を振るった場合を想定したもののようです。

B. 医療機関の分類 第六条第12項~第16項
①「感染症指定医療機関」には,「特定感染症指定医療機関」,「第一種感染症指定医療機関」,「第二種感染症指定医療機関」,「結核指定医療機関」があります。
②このうち,エボラなどの一種感染症を入院させられるのは「特定感染症指定医療機関(通称,特定医療機関)」と「第一種感染症指定医療機関(一種医療機関)」です。

C. 病原体の分類 第六条第17項~第23項
①病原体は「一種病原体等(エボラウイルスなど)」~「四種病原体等」に分類され,これらを総称して「特定病原体等」と呼びます。
②「一種病原体等」はBSL4施設でしか扱えませんが,その規定ははるか後の条に出てきます。
③天然痘ウイルスはどこにも定義されていません。これは建前上,米ロの二か国以外には存在しないことになっているからです。
時々,『BSL4施設では天然痘ウイルスは扱えない⇒(だからBSL4施設で天然痘の研究の心配はない⇒安心でしょ?)』という言い方をする(括弧内は言外に)人がいますが,これは正しくはありません。天然痘ウイルスが生物兵器に使われる恐れが出てきたら(現実には防御のための研究準備をしている人もいます),この法律の条文に書き加えるだけでBSL4施設で扱えるようになります。注意しておきましょう。

2.一種病原体の取扱いに関して New
病原体の危険度に応じた取扱いの規定は,回りくどくてとても判りにくいです。そこをしっかり見極めましょう。何しろ,『BSL4施設がないと治療も退院もできない!』という嘘のようなマヤカシのような流言が平然とまき散らかされるからです。
この規定は一気に第五十六条に跳びます。

A. 一種病原体等を所持できる者,場合 第五十六条第3項
① 1号から4号まであります。しかし,日常的に継続して所持できる者は1号だけです。
② 1号「厚労大臣が指定する施設において試験研究する場合」。この赤文字で指定した施設がBSL4施設で,後の条で回りくどく定義されます。長崎大学はこの1号指定される施設を作ろうとしているわけです。
  2号「第五十六号第22項1号と2号が滅菌譲渡をするまでの間」。この第22項2号によって,病院に患者が収容された際,一種ウイルスが病院に存在することを可能にします。詳しくは次のBをご覧ください。
  3号「運搬に関わる者,場合」
  4号「以上の業務従事者」

B. 病院における一種病原体等の取扱い 第56条第22項2号
① 第22項の冒頭は以下のように書かれています。
『次の各号に掲げる者が当該各号に定める場合に該当するときは、その所持する一種病原体等又は二種病原体等の滅菌若しくは無害化をし、又は譲渡しをしなければならない。』
② そしてその第22項2号について以下のように書かれています。
 『二 病院若しくは診療所又は病原体等の検査を行っている機関 業務に伴い一種病原体等又は二種病原体等を所持することとなった場合
③ ややこしいですが,①と②をまとめると次のようになります。
『病院は患者を収容して検体を採取した場合(この検体を臨床検体と呼ぶ),必ず病原体を所持することになるが(これを”業務に伴い”と表現),その病原体は滅菌又は譲渡しなければならない。』
④ このようにしてAの規定に戻れば,
『ただし,病院では滅菌譲渡するまでの間は所持を認める。』
となるのです。(所持を許される期間に関する規定は省令にありました。(未発見としていましたが,発見したので別途記事にします)。

C. 滅菌,または譲渡とBSL4施設の関係
① このように,BSL4施設があろうとなかろうと臨床検体には一種病原体等が存在する可能性があるわけですが,BSL4施設が無い場合でも臨床検体は不活化して,BSL3施設なりで検査することができます
② その場合,RT-PCR法などで確定診断を行うことになるでしょう。
③ 昨年の国内におけるエボラ疑い騒動時にも,エボラ疑い患者を収容した病院はこの手順通り,検体を不活化して感染研のBSL3施設に託したはずです。もし不活化してなければ,感染研は重大な違法行為を為したことになりますから。
④ そして,もし検体が陽性であったとしてもこのやり方を何度も繰り返すことができるのはもう明らかでしょう。


D. BSL4施設がないと治療も退院もできないのか?
① BSL4施設がない場合,エボラ患者を収容した病院では,臨床検体の採取⇒不活化⇒BSL3施設への譲渡,というサイクルを繰り返すことになるでしょう。大事なことは,このサイクルで法律上も治療上も全く問題はないことです。
② 法律上のことはこれまで見てきたとおりですが,治療上も問題の無いことは明らかです。何よりの証拠は,西アフリカでエボラの脅威に果敢に立ち向かった国境なき医師団を始めとする多くの治療チームが,相互協力もあったでしょうがBSL4施設無しで立派に終息させることに成功したことです。彼らがBSL4施設を治療のためと言って切望したでしょうか?違うはずです。
③ 何度も書くように,BSL4施設は動物実験研究のために必要なのであって,治療に不可欠ということではないのです。
④ それなのに,長崎大学はBSL4施設がないと治療が継続できない,退院の判定もできないなどと主張しています。これについては別途この記事(BSL4施設がなければ治療や退院もできないのか?)で紹介と同時に批判します。

3.BSL4施設の規定 New
肝心の,BSL4施設の規定はどこにあるのでしょうか。驚くべきことに,”BSL4施設”という言葉は,感染症法には全く現れません。その名称は省令にあります省令にも見当たらず,満たすべき性能や設備が定義してあるだけのようです。恐らく,技術の進歩に合わせて改正を繰り返しやすくするためでしょう。

A. BSL4施設は省令 第五十六条第24項
① 感染症法の第五十六条第24項は次のように書かれています。
 『特定一種病原体等所持者、・・中略・・その特定病原体等の保管、使用又は滅菌等をする施設の位置、構造及び設備を厚生労働省令で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない。』
② この技術上の基準を定めた厚生労働省令は,名称が『感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則』となっていて,その中の7ページ目にある第三十一条27項にその具体的中身が書かれています。
③その中身の当否は私たちには判断できませんが,信頼できる専門家と共に真剣に検討することが一度は必要でしょう。
しかし,それにも増して,安全審査体制を早急に整えることこそ,エボラの脅威を目の当たりにした国民にとって最も必要なことなのです。


BSL4施設がなければ治療や退院もできないのか?に戻る
トップページに戻る











=======記事はここまで=======

by nakamatachi3 | 2016-02-02 23:24 | ・根拠資料集 | Comments(0)

<< BSL4施設がなければ治療や退...    文部科学省からの回答書 >>