2.WHO97年文書から(その2)

① WHO97年文書: Safety in Health-care Laboratories (1997年)は施設の立地条件の勧告も含まれている文書であることを他にも確認しておきます。ここではWHOのホームページにある97年文書のダイジェスト版を見てみましょう。
 ・Safety in Health Care Laboratories (Summary)


② 第3段落に次の文章が見えます。
The manual has twelve concise chapters. The first two describe the principles and components of a laboratory safety programme and outline the training required to establish and maintain safe work practices. Chapter three, on laboratory premises, covers the many factors that need to be considered when siting and designing laboratory facilities for maximum safety.

和訳:このマニュアルは12の簡潔な章にまとめてあります。初めの2つの章はラボラトリーの安全計画に関する原則と構成要素を記すとともに,安全な作業実施法を確立し維持するのに必要な訓練の概略を示しています。第3章は,実験研究施設の敷地と建物に関して,据え付けと設計をする際に最大限の安全のために必要と考えられる多くの要因を扱っています

これにより,97年文書の性格がわかります。つまり,長崎大学や国が 根拠資料4:バイオ施設の安全性に関する国会答弁で主張したような,一つの建物内における実験室の位置だけを論じたものではなく,敷地を含めた研究施設全体の話も記述されているのです。

③もちろん,一つの建物内における実験室の位置を論じた部分もあります。それは,97年文書の18ページ,The principles of hazard zoning (危険区域を分ける原則)という節でわかります。

ここでは,建物内部を

 1. Safety Zone(安全区域)
 2. Low-hazard Zone(低危険区域)
 3. High-hazard Zone(高危険区域)

の3段階に分ける考え方が示され,

 ・玄関や事務所などは安全区域に配置すること
 ・超危険な病原体を取り扱う実験室は高危険区域に配置すること
 ・その間は低危険区域を挟むこと
 ・各区域はパーティションや壁などで仕切ること
などと書かれています。そして,安全区域にはどんなものが含まれるかについても例示されています。

 ◎ primary entrance (表玄関)
 ◎ circulation areas (一般の通行エリア)
 ◎ offices (事務室)
 ◎ stores for non-hazardous materials (危険でない物資の保管室)
 ◎ washrooms (洗面室)

注目すべきは offices (事務室)です。必要最小限の事務を行うためのものでしょうが,一つの建物の中に事務室と超危険な病原体を取り扱う実験室とが同居していることになります。
すると,WHOの立地勧告に関する文書の検証(その1)で考察したように,超危険なラボラトリーは"residential area"から遠く離れて建てることと書かれた文章の意味がはっきりしてきます。
すなわち,"residential area"とは,単に事務作業のために人がいる事務室のようなものではなくて一般住宅地を指していることが明らかになります。

(2015-03-29)

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by nakamatachi3 | 2015-03-29 21:18 | Comments(0)

 2000年5月の第147国会において,当時社民党の辻元清美議員からバイオ施設の安全性に関する質問が出されました。ここではその質問の主意書と当時の森首相の答弁(国の見解)を見ておきます。下記の質問番号14です。
 ・第147回国会 質問の一覧
 基本的にBSL4施設のみでなくバイオ施設全般の安全性についての質問ですが,それらは当時全く不備であったことがわかります。その不備な情況は現在もなお同じなのです。


1.バイオ施設の立地に関する国会質問と答弁New

質問は12項目に及びますが,ここでは最も重要な5番目について記録しておきます。

五 WHO『Safety in Health-care Laboratories』(1997年 和訳『保健関係施設の安全性』)では「高度封じ込め実験施設あるいは危険な実験施設は、患者や公衆のいる地域とよく使われる道路から離れて立地されなければならない。」(P.16)とし、バイオ施設の立地について規制している。日本でもこれに従い住宅地及び公衆の集まる地域に立地することを禁ずる法的な規制が必要と考えるが、いかがか。


②当時の森首相の答弁が以下です。

五について お尋ねの「Safety in health - care laboratories」は、世界保健機関の公式文書ではなく、内容についてはその著者が責任を持つとされていると承知している。また、同文書の十六ページにおいては、高度封じ込め実験検査室あるいは感染リスクの高い実験検査室は、患者のいる場所や公共部分あるいは人の行き来の多い通路から離れて設置すべきである旨が記載されているが、これは、病院等の施設内においてどこに実験検査室を配置するかを論じているものであり、実験検査室が住宅地及び公衆の集まる地域に立地することの是非を論じているものではないと承知している。 なお、都市計画法(昭和四十三年法律第百号)第八条第一項第一号に規定する用途地域内の建築物については、建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)により、その用途に応じてその建築が制限されている。


③この答弁の問題点
森首相の答弁に示された見解は1.WHO97年文書から(その1)で指摘したように意図的な『誤訳』が潜んでいます。
すなわち,重要な個所はこの和訳が現れる文章そのものではなく,その直前にある"Residential areas" を含む文章なのです。その語句を意図的に無視することにより実験検査室が住宅地及び公衆の集まる地域に立地することの是非を論じているものではないという解釈に到達できるのです。
それから下線部については97年文書の重みを減らそうとする意図が感じられます。確かにそのような文言はありますが,多かれ少なかれWHOの文書は署名入りで,例えば2004年版にも内容の責任は著者のみにあることが明言されています。この件については長崎大学はもう主張していないようですが,それもそのはず,97年文書も各WHO文書で正式に引用されているのです。

なお,これに関するより詳細な議論は,WHOの立地勧告に関する文書の検証(その2)をご覧ください。
(2015-03-29)


他の質問項目についても考えます。



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by nakamatachi3 | 2015-03-29 14:59 | ・根拠資料集 | Comments(0)


1.WHO97年文書から(その1)

①まず最も重要な論点から議論します。その箇所は以下にあります。
文書: Safety in Health-care Laboratories (1997年)C.WHOの原典文書類に掲げた第3番の文献。)
章: 3. Laboratory premise (第3章.実験施設:敷地と建物)
節: Location of the laboratory (ラボラトリーの位置)(第3章の4番目の節)


②私たちが最も重要と考える文章は,この節の8行目にある次の文章です。

―wherever possible laboratories should be sited away from patient, residential and public areas, although patients may have to attend and provide or deliver specimens;

③この文章の和訳として,私たちは長島功さんの訳(『保健関係実験施設の安全性』にあります)を全面的に支持します(その根拠は後述)。それを踏まえて,私たちの訳をここに示します。

ーたとえ患者が訪れて標本を提供したり届けたりしなければならないことがあるとしても,ラボラトリーは患者のいる地域や住宅地,公共の地域から可能な限り離れて建てなければならない。

すなわち,住宅地や公共の地域から可能な限り離れてとあります。私たちはこのことがあるので,BSL4施設が住宅地に建てられることはWHOの勧告に違反すると主張しているのです。ましてや坂本地区は単なる住宅地ではなく住宅密集地であり,建設はもってのほかと言わざるを得ません。


④それでは長崎大学や以前国会で答弁した国はどのように訳しているのでしょうか?実はここに示したような訳に対する形で公表されたものは見つけることができていません『保健関係実験施設の安全性』には,『国はこの英文に含まれている"residential areas"をなぜ省いて解釈するのか』という抗議の一文があります。

つまり,国は上記②の文章を無視することで『ラボラトリーは住宅地からできる限り離れて建てること』というWHO勧告を誤訳しているわけです。これは意図的でなければできないことです。長崎大学はこの国のやり方をそのまま無批判に引き継いでいますので,WHOの勧告に違反しているという批判を免れることはできないのです。そう言われたくなければ,長崎大学はこの文章を独自に訳出してください。


⑤ただし,WHO文書では『できる限り離れて建てること』としか書かれておらず,どの程度離れていればいいのか数字的に示されていません。こういうことこそ,国が法律を整備して定めなければならないことです。

声明 項目別まとめに書いた通り,法的整備はほとんどなされていません。従って,そのような現状では長崎大学のBSL4施設設置計画はいったん白紙撤回すべきなのです。
(2015-03-22追加)


⑥ではなぜWHOはこのような勧告を出したのか,考えてみましょう。同じく『保健関係実験施設の安全性』の1.3節には,P3実験室の環境・立地条件についてが書かれています。ただし,その考察の原典"Laboratory biosafety manual (Second Edition)"(1993)は今ではインターネットで入手できないようです。しかし,その修正版であるLaboratory biosafety manual Third Edition (2004年)にも同じような文章がありますので,そちらで考えます。

21ページの項目8の4行目から次のように書かれています。

When exhaust air from the laboratory (other than from biological safety cabinets) is discharged to the outside of the building, it must be dispersed away from occupied buildings and air intakes.

和訳:実験室からの排気(生物学的安全キャビネットからの排気以外)を建物の外部に排出する時は,人のいる建物と空気取入れ口から遠く離れて拡散させなければならない。

すなわち,実験室のある建物からの排気は人のいる建物 (occupied buildings)から遠く離れたところに排出しなければならないのです。この『人のいる建物』が研究所内の建物であるか一般の住宅であるかは明言されていません。しかしながら,どちらであっても事情は同じです。
もし研究所内の建物を指すとすれば,一般住宅からはより一層離れるべきことは明らかだからです。BSL4施設はこのような潜在的な危険性を持っているために,97年版には立地勧告がなされたものと考えられます。(実は,ここの文章はBSL3の施設について書かれている部分です。BSL3施設であってさえこのような配慮が必要なのです。現在,坂本地区ではBSL3施設が稼働していますが,正当性を再検証すべきではないのかと思われます。)
(2015-03-23追加)


この記事はWHOの立地勧告に関する文書の検証(その2)へ続きます

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by nakamatachi3 | 2015-03-21 11:48 | Comments(0)



 1.議論の所在 2015-03/19
   WHOの定めた指針について,私たちと長崎大学の間には大きな見解の相違があります。その論点の概略をまとめています。

 2.長崎大学の主張の骨子 2015-03/19
   長崎大学の主張ですが,私たちは意図的な誤訳を指摘しています。皆さまでご判断ください。

 3.WHOの立地勧告に関する文書の検証(その1) 2015-03/21
   97文書で,排気は人のいる建物と空気取入れ口から遠く離れて拡散しなければならないと定めています。この意味は重大です。

 4.WHOの立地勧告に関する文書の検証(その2) 2015-03/29
   長崎大学の主張ですが,私たちは意図的な誤訳を指摘しています。ご判断ください。

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by nakamatachi3 | 2015-03-19 23:04 | ・主張・理念 | Comments(0)



根拠資料3: WHOの勧告文書類

議論の基となるWHO文書を古い順に挙げると次のようになります。(和名訳は直訳です。)これらの中で,最大の争点となるのは下記の3番の1997年版です。
バイオハザード予防市民センターのホームページにある,翻訳家・長島功さんの業績になる著作物(9.世界のバイオ規制法)から引用個所を明示して引用させていただいています【注】。)

 1.Laboratory biosafety manual(1983年)
  (『病原体等実験施設の安全対策マニュアル』第1版

 2.Laboratory biosafety manual, Second Edition(1993年)
   (『病原体等実験施設の安全対策マニュアル』第2版

 3.Safety in Health-care Laboratories (1997年)
   (『保健関係実験施設の安全性』

 4.Laboratory biosafety manual, Second Edition (Revised)(2003年)
  (『病原体等実験施設の安全対策マニュアル』修正第2版

 5.Laboratory biosafety manual Third Edition (2004年)
  (『病原体等実験施設の安全対策マニュアル第3版』

 6.Biorisk management - Laboratory biosecurity guidance (2006年)
  (『バイオリスクの管理について(日本語訳)』
   日本語訳には気を付けましょう。特に立地条件に関する個所。

【注】引用自体,あるいは引用後の所論の展開においておかしな部分があれば,すべての責任は当ブログにあることをお断りしておきます。


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by nakamatachi3 | 2015-03-19 19:43 | ・根拠資料集 | Comments(0)


B. 長崎大学の主張の骨子

昨年末,長崎大学はBSL-4施設の設置場所に関するWHO(世界保健機関)の見解について(2014年12月08日)と題する主張を発表しました。そこに描かれている主張には下記の問題点が存在します。ここでは簡単な反論を載せておきますが,詳細は【立地条件に関するWHO勧告を巡る議論】をご覧ください。


1.長崎大学がWHOに直接この件について問い合わせ,WHOの担当者から「・・・都市の中心部に建設されたとしても問題ない」との回答を得た。
主な反論:この問合せと回答書を公表するよう求めます。実は長島功さんが得た別の回答も存在します。


2.欧米諸国の高度封じ込め実験施設(BSL-4施設など)や危険度の高い実験施設を有する病院や研究所の多くが大学構内や市街地に建設され稼働しているのに,WHOはこれら市街地の立地について問題にしたことはない
主な反論:WHOの指針は遵守義務はありますが,罰則はありません。また,市街地から離れるべき距離を数値で規定しているわけではないのです。WHOが問題にしないからと言って,違反ではないということではありません。ましてや,このことで坂本地区に設置してよいということにはなりません。敷地の広さなどは狭い坂本地区とは比較にならないかもしれません。各国がバイオテロの脅威におびえた時期,背に腹は代えられぬ思いで施設を作った可能性もあります。WHOの委員は各国の利害を代表している面もあるのです。
 また,『多くが稼働している』という表現が適切なのか,敷地の大きさなどと共に数字的な裏付けを示してもらいたいのです。


3.「BSL-4施設の市街地への建設はWHOの勧告違反」という誤った情報が伝わっている理由は,WHOが1997年に発表した「保健関係施設の安全性(Safety in health-care laboratories)」と題する文書の誤訳が原因となっているようである。
主な反論:この『誤訳問題』が,最大の争点です。実は推進側の方こそ,意図的に『誤訳』をしているのです。この問題が【立地条件に関するWHO勧告を巡る議論】で行うメインの議論です。


4.WHOが2004年に出した最新の指針「実験室バイオセーフティ指針第3版2004(Laboratory biosafety manual, Third edition WHO 2004)」では,「実験室は、建物内の往来が制約されていない区域とは切り離さなければならない。実験室を廊下の行き止まり部分に設置したり,仕切り,ドア,または実験室と実験室に隣接する場所の差圧を維持するために設計された前室を通って入るようにすることで,さらにしっかりと隔離できる」と,建物内でのバイオ施設の位置関係として明快に記載されている
主な反論:これも3と同じですので,原典にあたって論じます。そもそも2004年のマニュアルに実験室のことが書かれているとすれば,1997年の版には実験室のことではなく研究施設全体のことが書かれていると考えても全く問題ありません


5.3の『誤訳問題』はすでに2000年の国会でも取り上げられており、国の答弁書として『誤訳』であるとの見解が公表されていること。
主な反論:この回答は武蔵村山に作られたBSL4施設の問題について,国会で追及がなされた時の答弁です。国がこのように『誤訳』した動機ですが,せっかく作った武蔵村山の施設がWHOの立地勧告に違反していることになるので,やむを得ず『誤訳』に逃げたと推測できるのです。国会の答弁がどれほどの信頼性を持つものか,福島事故でいやと言うほど私たちは学習しました。市民自らが,自分の頭でしっかりと考える必要があります。


6.その他:長崎大学は,以前の住民説明会等では,1997年版は2004年版によって効力を失ったという趣旨の説明を行っていました。しかし,現在,そのような説明はホームページのどこにも見当たらないようです。説明を変えたのでしょうか?もし私たちの見落としでなければ,なぜ以前はそのような説明をしていたのかについて長崎大学に釈明を求めます。

【立地条件に関するWHO勧告を巡る議論】に戻る
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by nakamatachi3 | 2015-03-19 19:42 | ・主張・理念 | Comments(0)


A. 議論の所在

 私たちと長崎大学はBSL4施設に関するWHOの勧告を巡っても見解が異なっています。この記事では大学側の主張を吟味し,その一つ一つに批判と反論を加えていきます。
 詳細な議論は,【立地条件に関するWHO勧告を巡る議論】の各記事ををご覧ください。一言でまとめると以下のような見解の相違があります。これだけでは何のことかわからないでしょうから,原典にあたって議論します。


私たち⇒
・WHOの立地勧告では,BSL4のLaboratoryは『residential area(住宅地)』や『public area(公共の地域)』から離れて建てることを要請している。従って,市街地等に建てることは勧告に違反する。
・Laboratoryとは『実験研究施設全体』でも『実験室』でもよい。
・Laboratoryが建てられるべき位置を巡って,『住宅地』や『公共の地域』を単なる病院などの施設内における『公共部分』と解釈するのは意図的な誤訳だ。


長崎大学
・WHOの立地勧告では,BSL4施設の場所について『住宅地』や『公共の地域』との位置関係については何も要請していない。
・Laboratoryとは『実験室』という部屋を指しており,病院などの施設内における『公共部分』から離れて設置すべきことを要請している。従って,市街地に建てることは勧告違反ではない
・Laboratoryを『residential area(住宅地)』や『public area(公共の地域)』から離れて立てるように要請していると解釈するのは誤訳だ。
(長崎大学の主張の骨子は,B.長崎大学の主張の骨子 に示す通りです。)


念のため強調
WHO勧告違反は反対理由のほんの一部に過ぎまぜん。しかし,もし本当に違反することが明らかなら,反対理由はこれだけで良いと言えるほど重要なものです。(反対理由はそれほど多いと言えます。) しっかりと検証しましょう。⇒【立地条件に関するWHO勧告を巡る議論】


市民の皆さんへ
どちらの言い分に理があるかよく見極めてください。
長崎大学へ⇒反論はいつでも歓迎いたします。ご遠慮なくどうぞ。

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by nakamatachi3 | 2015-03-19 19:39 | ・主張・理念 | Comments(0)