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 1.感染症研究体制推進プロジェクトの目的

 長崎大学のBSL4施設に関することは,国際的に脅威となる感染症対策の強化に関する基本計画(案)の資料では6/8ページにあり,プロジェクトとしては5つの中の第4番目, ④感染症研究体制推進プロジェクトという名前です。

 このプロジェクトの目的は次の二つです。

 ① BSL4施設(高度安全試験施設)を中核とした感染症研究拠点の形成について、長崎大学の検討・調整状況等も踏まえつつ必要な支援を行うなどにより、我が国の感染症研究機能の強化を図る。
 ※現在、研究開発においてBSL4施設の活用が必要な場合は、海外BSL4施設で実施している。

 ② BSL4施設を中核とした感染症研究拠点の形成に必要な支援方策等として、感染症に関する基礎研究・人材育成、医薬品創出のための研究開発、そのためのネットワークや連携・協力の在り方等を検討・調整し、推進。

 2.協議会の設置

 ここで注目すべきは①の赤文字部分です。確かに,『BSL4施設を中核』とした『感染症研究拠点の形成』について,長崎大学云々と書かれています。しかし,検討・調整状況等も踏まえつつというのはどういう意味なのでしょう?ここをスルーしてしまったら,国のお考えを誤解することになります。
 それを推測する前に,もう一つ重要なことが書かれていますのでそれを先に見ておきます。それは協議会の設置についてです。この役割として,

 『内閣官房に関係省庁・自治体・大学等で構成される協議会を設置し、支援方策等を検討・推進』

とあり,具体的には
 (1)BSL4施設の具体的な活用方策等
 (2)BSL4施設の機能及び運営方法等の在り方
の2つについて協議するもののようです。

 この関係閣僚会議の翌日,片峰学長は記者会見を行い,報道各社もニュースで伝えました。(片峰学長の記者会見と報道については別記事で批判する予定にしています。)その骨子はどちらも同じ内容で,次のような趣旨だったのです。

 ・『政府はBSL4施設を長崎大学に設置することを決定した』,
 ・『そのために,長崎県と長崎市も入った協議会を内閣官房に作ることとした』
しかし,果たしてこのように言えるでしょうか?

 3.『長崎大学の検討・調整状況等も踏まえつつ』とはどういう意味なのか?

 改めて検討・調整状況等も踏まえつつという文言を含む文章はどういう意味なのか推察してみます。上記①の文章が例えば次のような文章ではないということに重要な意味を見なければなりません。

 『BSL4施設(高度安全試験施設)を中核とした感染症研究拠点を長崎大学に形成し,必要な支援を行うなどにより、我が国の感染症研究機能の強化を図る。』

検討・調整状況等も踏まえつつという微妙な言い回し,特に『調整状況』とは,やはり住民が設置を認めるかどうか,住民が長崎大学の安全神話の説明を受入れるかどうかの状況を意味していると考えるのが最も自然です。
 すなわち,政府は賢明にもBSL4施設を設置するには住民の合意と住民の安全・安心の確保が必要と考えておられます。(2014年に共産党長崎県委員会の方々が文部科学省に陳情に行かれた際,そのような言質を得たということが伝えられています。)

 当然ながら,住民は坂本キャンパス設置を容認していないことを文部科学省と財務省は承知しておられるはずです。というのは私たちは昨年の11月に文部科学大臣と財務大臣宛てに直訴状を送り,文部科学大臣からは回答も戴いたからです(文部科学省からの回答 )。それを改めてここに書き出しておきます。検討・調整状況等も踏まえつつという微妙な言い回しとの対応をよく感じてください。

  『いただいたようなご意見もあることを踏まえ、今後の我が国の感染症の取組を進めてまいりたいと考えています。』

 基本計画案で検討・調整状況等も踏まえつつという微妙な言い回しで慎重を期さざるを得なかったのは,武蔵村山の感染研での長期間稼働できなかったことの二の舞を避けるためでもあるでしょう。
 要するに,仮にBSL4施設を造っても武蔵村山のように長期間稼働できない事態となったら,本当に税金の無駄遣いとなります。片峰学長にはぜひ設置場所を市民から応援されるような所へ変更して戴き,せっかくのこの好機を活かして欲しいのです。

 4.協議会へ参加する自治体はどこなのか?

 以上のように,未だBSL4施設の設置場所を長崎大学の坂本キャンパスに決定したという事実はありません。それが無いとしたら,協議会に参加する自治体とはどこを意味することになるでしょうか?

 報道関係や県や市自体も,この自治体とは長崎県と長崎市を意味すると決めておられるようです。しかしながら,たとえ長崎大学に設置するとしても,『調整状況』によっては坂本キャンパスとは限らず,ひょっとしたら長崎市外に出ることになるかも知れません。あるいは極端なケースでは長崎県外に出る可能性,さらには坂本キャンパス以外に設置場所が無いとしたら,長崎大学そのものも拠点構想から外れる可能性だってあり得るのです。

 つまり,協議会に参加する自治体は自明的に長崎県と長崎市を指しているわけではないことを認識する必要があります。
(ただし,ポンチ絵のBSL4施設のマークには長崎大学の紋章が使われています。従って,国としての意中の候補の第一は長崎大学であることに間違いはないです。しかし何度も言うように,まだ決定したわけではないのです。)

 5.感染症研究拠点と坂本キャンパスとの関係

 同じ基本計画案の5/8ページを見ると,もう一つ面白いことが発見できます。
 ポンチ絵において感染研と新しく計画中のBSL4施設の位置関係です。感染研は新設のBSL4施設に対しても,検査・予防・治療のため,および運営・管理に必要な人材供給に関して指導的立場にあることがわかります。

 さて,感染研からのそのような指導下で産学官が連携した感染症研究拠点が形成されるという青写真なわけですが,一つ大きな心配があります。それは研究拠点としての坂本キャンパスの狭さです。

 その研究拠点では何をやるのかといえば,

  ・一類感染症の病原体等に係る基礎研究の実施・推進
  ・治療薬・診断薬・ワクチンの開発
  ・危険性の高い病原体等の取扱いに精通した人材の育成・確保

など多くのことをやらねばなりません。そして,それには長崎大学だけではなく,他の大学・研究機関,さらには製薬企業やバイオ企業など,多くの分野の研究者が参加しなければなりません。

 そのような多くの研究分野や研究者が集まるには,坂本キャンパスではいかにも手狭です。
 そもそも坂本キャンパスは医学部キャンパス,そして最近は医歯薬総合研究科のキャンパスなのです。感染症以外にもごくプロパーな医歯薬学研究,医歯薬学教育,などは無論,長崎大学が誇る原爆医療などもやって行かねばならないのです。
 老婆心ながら,世界的研究拠点となるにはあまりにも貧弱なものとなるでしょう。

 しかし,ここで推進派の方々の声が聞こえてくるようです。

 「何も実際に人間が坂本に集まる必要はない。今はネットワークの時代なのだ。ポンチ絵にも”ネットワーク”と書いてあるではないか!」

 もしこのように反論されるなら,こちらからはさらに反論をお返ししたいのです。

 「あなた方は坂本キャンパスに設置する大きな理由として,『いろんな分野の研究者が坂本に集まっているから』というものを挙げませんでしたか?」

 もし『世界的感染症研究拠点』がネットワークでできるのなら,BSL4施設の坂本設置の理由として『いろんな分野の研究者が坂本に集まっているから』はおかしいのではありませんか?
 『世界的な感染症研究拠点』というものを造るためには,手狭な坂本から脱出して,熱研ごと適地へ移転する方が良いように地元住民は思いますが,無論,老婆心です。


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by nakamatachi3 | 2016-02-22 08:15 | ・主張・理念 | Comments(0)

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